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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)1560号 判決

原告

西村光雄

右訴訟代理人

橋本盛三郎

浜田次雄

松浦武二郎

松浦正弘

山下潔

被告

明星自動車株式会社

右代表者

橋本等

鈴木勇

右訴訟代理人

小林昭

大戸英樹

南出喜久治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立等

原告

一  原告が、被告の一三、〇八二株の株主であることを確認する。

二  被告は、原告名義の株式一三、〇八二株について、原告が被告の株主総会においてその株主権を行使することを妨害してはならない。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

被告

主文同旨

第二  請求原因

一  原告は、被告の株主名簿において一三、〇八二株を有すると記載されている被告の株主である。

二  被告は、原告の株主であることを争い、原告が被告の株主総会において株主権を行使することを認めようとしない。

三  よつて前記申立どおりの判決を求める。

第三  請求原因における認否

一  請求原因一項中、原告が被告の株主名簿において一三、〇八二株の株主である旨記載されていること、かつて原告が被告の一三、〇八二株の株主であつたことは認めるが、原告が現在も被告の一三、〇八二株の株主であることは否認する。

二  同二項の事実は認める。

三  同三項の主張は争う。

第四  抗弁

一  原告がかつて有していた一三、〇八二株の株式は、昭和五三年八月四日、京都地方裁判所昭和五三年執イ第七三八号競売事件において、エムケイ株式会社が競落し、右株券の交付がなされた。

二  よつて原告は被告の株主の地位を失つた。

第五  抗弁に対する認否

一  抗弁一項の事実は認める。

二  同二項の主張は争う。

第六  再抗弁

一1  被告の定款には、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがある。

2  したがつて、抗弁一項の競落のみによつては、原告は被告の株主の地位を失わない。即ち、いわゆる株式の譲渡制限がなされている場合、取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡(競売を含む)は、会社に対する関係では効力を生ぜず無効である。そして、会社に対して無効である以上、会社に対する関係において従前の株主が株主として取り扱われるべきことは当然である。これは商法における画一的取扱いの理念とも合致している。

二  被告は、前記株式競売後も第二一期、第二二期、第二三期、第二四期、第二五期、第二六期と各定時株主総会につき原告に株主総会招集通知をなし、株主総会において議決権行使を認め、原告に対し配当金(第二六期は無配)を支払つてきた。ことに、昭和五九年六月二二日開催された第二六期定時株主総会においては、一株主(松山友明)から競落を理由として原告の株主資格に異議が述べられたが、議長を務めた被告代表取締役橋本等は、株主名簿に記載されている株主が株主であるとして、原告に議決権行使をみとめている。このように、被告は、永年にわたり、原告が被告の株主であることを自認して取扱つてきたのであるから、被告が本訴においてこれと異なる主張をすること自体禁反言の法理に照らして認められないというべきである。

第七  再抗弁に対する認否

一  再抗弁一項1の事実は認め、同項2の主張は争う。即ち、競売による株式の移転の場合は、事前に承認請求のなされる通常の株式の譲渡の場合と異り、競落により、即ち競落人の承認請求に対する取締役会の承認ないし譲渡の相手方の指定をまつことなく、株主の地位を失う。

けだし、右承認ないし指定がないからといつて、もはや従前の株主が権利者に復帰することはありえないからである。

二  再抗弁二項の主張は争う。被告代表取締役橋本等は、「株主資格について法的な問題があるので、会社として十分検討する」と答えたうえで、株主名簿記載による免責に言及したものにすぎない。

第八  証拠〈省略〉

理由

一かつて原告が被告の一三、〇八二株の株主であつたこと、原告が現在も被告の株主名簿に一三、〇八二株の株主として記載されていること、及び請求原因二項の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで抗弁についてみるに、同一項の事実は当事者間に争いがないから、他に特段の障害事由のない限り、原告は株主の競落により株主の地位を失つたというべきである。

三そこで再抗弁一項についてみるに、定款をもつて株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨定められている場合に取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である。このことは、競売により株式を取得した者が会社に対し右取得の承認請求をすることなく放置している場合についても妥当する。そして「会社に対する関係では効力を生じない」ということの意味は、譲渡の相手方を指定する権利が会社に留保されているから、会社には競落人を株主として無条件に取り扱う義務はない、ということにほかならない。また「譲渡当事者間においては有効である」ということの意味は、従前の株主において、競落人に対してはもとより会社に対しても、当該競落が株式の譲渡制限に反するの故をもつて無効であるとし権利主張をすることを許さない、ということに外ならない。けだし、(一)株式の譲渡制限の制度は、会社の利益保護のためのものであり、競落後における従前の株主の利益保護のためのものではないし、(二)競落後会社に対し株式譲渡の承認を請求しうる者は、従前の株主ではなくて、競落人であり、しかも競落人の右請求に対し会社が承認を与えない場合においても、そのことをもつて従前の株主が競落前の株主の地位に復帰することは法的に認められていないうえ、(三)従前の株主は、競落により株式の代金を取得し他方株券を競落人に交付してしまうのであるから、株主の権利を行使すべき実質的理由を失い、株主としての法的保護に値しない状態になる、からである。

ところで、右の判示によるならば、競落人が会社に対し株式取得の承認請求をすることなく放置しているときに、会社が従前の株主を競落を理由に株主として取り扱わないとすると、競落にかかる株式について権利を行使し利益を享受する株主が一時不存在であるかの如き状態を呈するに至るけれども、このような状態は、株式の譲渡制限はないが競落人が会社に対し名義書替を請求することなく放置している場合にも生じうることであつて、やむをえないものと考えられるから、競落人の承認請求懈怠の間は従前の株主が会社に対し競落の存在によつて何ら影響を受けることなく権利を主張することができるという考えには左袒することができない。

そうしてみると、従前の株主である原告が被告に対し競落が株式の譲渡制限に反し無効である旨主張することは許されないから、再抗弁一項は主張自体失当である。

四次に再抗弁二項についてみるに、弁論の全趣旨によれば、被告は、前記競売後も第二一期ないし第二六期の各定時株主総会につき原告に対し株主総会招集通知をし、株主総会においては議決権行使を認め、またこの間(但し無配の第二六期を除く)原告に対し配当金を支払つてきたこと、殊に昭和五九年六月二二日開催された第二六期定時株主総会においては、一株主から競落を理由として原告の株主資格につき異議が述べられたが、被告代表取締役橋本等の発言の結果、原告に議決権行使を認めたこと、しかし被告は、昭和六〇年六月二三日開催の株主総会から、原告に対し招集通知をしなくなつたこと、そのため原告は、同年六月一九日、右株主総会における株主権行使妨害禁止の仮処分決定を得て株主総会に出席することができたこと、これに対し被告は、右仮処分決定に対し異議申立及び起訴命令の申立をし、原告が株主であることを争つていることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで前記判示のとおり競落後の従前の株主が会社に対し株主の権利を主張することは許されないから、会社にとつても右従前の株主を株主として取り扱う義務はなく、会社は競落を理由に従前の株主の権利行使を拒絶できるが、反対に会社の方から株主名簿に依然として記載されている従前の株主を株主として取り扱うことは差し支えない。そしてその場合従前の株主は会社の取扱いによる反射的利益を享受するにすぎない。その期間が前記の認定のとおり長期に及ぶことは、むしろ法が本来あるべき姿として期待するところと背馳するものであり、会社が前記認定のとおり右取扱いを改めあるいは法的措置をとつたからといつて、禁反言の法理に反しはしない。再抗弁二項は理由がない。

五よつて、原告の請求は理由がないから棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官重吉孝一郎)

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